川合 翔太【11期生】

2016年度 コミュニティ・デベロップメント・プログラム/インド・ファシリテーター育成コース

派遣先:インド

川合 翔太【11期生】

川合翔太序論

本レポートは現地時間2017年2月19日(日)から27日(月)の1週間で行われたNPO法人「ム ラのミライ」主催の「はじめてのフィールドワーク・ツアーin 南インド」にHOPS国際フェロー として参加し、その内容を報告するのものである。

本論

研修1日目

研修初日はオリエンテーション(ビシャカパトナム市内の漁港・教会訪問)並びにVVK信用金 庫事務所訪問・パラデシュパレム(スラム)の訪問を行なった。最初のオリエンテーションでは 参加者4名がそれぞれインドで学びたいことを30個程度個人ワークで書き出したあとに全体で それらをまとめるグループワークを行なった。また研修中には事実質問のみを行うこと等の諸注 意が行われた。事実質問というのは「なぜ(Why)」「どう(How)※how many等除く」から 始まる質問を禁止し、「When」「Where」「What」という具体的な事象についての事実を訪ね る質問の手法を示す。その後は次の目的地に着く間までフィールドワークの拠点となるビシャカ パトナム市街地を視察しつつ、漁港や高台から街を一望したりと街の紹介が行われた。

VVK信用 金庫は市街地の中心部から車で10分ほどの場所に位置していた。ここでは最初にVVK信用金庫で 働く方々からの自己紹介や事業紹介が行われ、その後実際に学生が事実質問を行うことになった。 相手側の紹介や事実質問から得た情報としては、この団体はムラのミライの事業の一つとして発 足された・従来の貸金制度には借り辛い制度が存在し、それに問題意識を感じたことから本信用 金庫を設立した・ビシャカパトナム市内を9つのエリアに分けて管理をしている・理事会とフィー ルドスタッフ、並びにアシスタントで構成されている・主に集金をするのはフィールドスタッフで ある・定期的に行われる理事会で問題点を話し合い問題解決を自身たちの組織だけで解決するこ とを心がけていることが大まかにわかった。特に問題解決については迅速に対応するノウハウを 有しており、発足当初に関わっていたムラのミライの支援なしでも現在の運営は所属メンバーによっ て全て行われている。訪問の後はVVK信用金庫のフィールドスタッフの住んでいるスラム、パラデ シュパレムへ移動した。このスラムはビシャカパトナムの中心街から車でおおよそ30分程度で、 アーンドラプラデシュ州と他の州の県境にあるようなスラムである。ここのスラムでも継続して事 実質問を行い、身近な物・コトについて質問し住んでいる人がすぐに答えられる導入質問からそ のムラの人々の生活の背景を知るような質問まで展開させていった。初日の事実質問を通じて、 相手方に質問するときには徐々に質問のレベルを上げていくことで複雑な質問についても答えて くれるようになること、事実質問を通じて最終的に知りたいこと(目的)を念頭に置いた上で行 わないと、単なる事実収集で全く事実を集めた意味がなくなってしまうことがわかった。

研修2日目

研修の2日目は前日のフィールドワークの内容を振り返り、事実質問の練習も行われた。4名の 参加者中2名は事前に指定された研修を受講することができなかったため、事実質問を行う理由 の説明やその効果を肌で感じ取れるような練習が行われた。具体的には、目の前にあるポケット ティッシュについて、「これはなんですか、これはいつ買いましたか、誰のお金で買いましたか、 それを買ったときには他の何かを一緒に買いましたか、買い物はそのとき以外に最近いつ行きま したか、誰と行きましたか……」といったようにNPO法人の肩がロールモデルとして質問を展開 していった。最初は目で見て瞬時に回答できるような単純質問から始まったが、質問の内容を展 開していくにつれて買い物の頻度やそれに使うお金の話も自然に質問の中に含まれていくように なった。このような流れにすることで、この人は今学生なのか社会人なのか、家族構成はどのよ うで役割はどのようなものなのか、お金はどのような様式でもらっているのかあるいは稼いでい るのか、というその人の生活様式の背景を知ることができるのであり、この流れこそが事実質問 の目的であるとNPOの方は説明していた。つまり、誰しもが答えられる質問を続けることで答え る側の人の自尊心を上げ、その内容が多岐に渡っても、継続的に質問をしていっても対応してもら える。そうすることで真に知りたい文化の背景や生活の背景へつながる質問が可能になっていく のである。以上のフィードバックを踏まえた上で次のスラムであるディーアダイアームへと向かっ た。ここのスラムはビシャカパトナムの中心市街から車で15分程度で、前日の村よりも政府から のインフラ提供が進んでいる地域であった。ここでもVVK信用金庫のフィールドスタッフの方が 集まってくださり、彼らの住む村への事実質問を継続しておこなった。その結果得た情報として は、前日のスラム同様に井戸はあるが数が違う(2日目のスラムの方が数が多い)・インドの文化 として家の前や中に書く幾何学模様は宗教に由来し、幸運を呼ぶものであるとされている・その 絵は女性しか書かない、といったことがわかった。2日目のスラム訪問は午前中の事実質問の練 習をおこなっていたにも関わらず有益な情報を聞き出すことができなかったと痛感しており、そ の原因としては最終的に聞きたいことが明確でなかったからということがわかった。そこで次回 のスラムに行くまでに最終的にどのようなことが今現在きになるかということを再度個人で検討 すること、前日のスラムと今回訪問したスラムの違いをグループで検討することが宿題として課さ れた。

 

研修3日目

研修3日目は前日の宿題の発表を午前中に行い、それから2つのスラムを訪問するスケジュールで あった。宿題の発表は2名1組チームで行い、双方パワーポイントや模造紙に書いたものを発表 し合った。この違いを見つける手法も事実質問を通じて得られるものであり、いくつかのスラム で共通した質問をしていれば比較検討することが可能であるとのフィードバックが行われた。こ の時点で多くの事実質問の練習の機会と手法を一定程度学んだことから、2つのスラムではより 学生の質問のために時間を多く割かれた。最初に訪問したのはアリロワというスラムで、ここで の事実質問を通じてわかったことはビシャカパトナム州ではファミリーカードを各家庭に発行し ており、色は2種類存在する(白とピンク)・白の家庭はピンクの家庭よりも世帯収入が低い・ 白のファミリーカードの家庭には配給が行われている・そのほかにも給付が出ている・スラムに は白のファミリーカードを所持する人が大半で、アリロワには1000世帯存在するが数世帯しかピ ンク色のカードを所持していない・村の水は1日30分ほど供給される市の水道を利用している・ その時間は未定・移動手段はバスかバイク、各家庭の車・バス停はスラムの中にすぐ存在するが時 刻表はない、ただ頻繁にバスが来るため不要、といった少し踏み込んだ情報が得られた。3日目 の訪問した村では1~2日目で得た情報とは明らかに質が異なる情報を得ることが可能になり、 その理由としては参加者がそれぞれ最終的に知りたい目的を明確にしたことが考えられる。次の スラム、コバリドータでも彼らの買い物についての習慣や水の環境について情報を得ることができ た。この段階で参加者達は事実質問の目的や、その手法については大まかな理解が得られていた と推察できる。

 

研修4日目

ホームステイ  この日は午前中からホームステイする村への移動時間へと費やされた。ホームステイ先である ポガダガリ村はスリカクラム県に位置し、滞在先であったホテルから片道3時間強かかるところ に位置していた。山間部に位置し、周囲は畑が広がる村でホームステイを実施した。各家庭に1 名ずつホームステイをし、村の人々と寝食をともにした。
その際村のリーダーが山を案内し、ム ラのミライと協力しダムを建設したこと、その理由、そして現在の管理体制について英語で説明を していただき、持続可能な開発の現場の実際を見学した。この時点で事実質問については皆一定 の手法は身についていたため、質問も盛んに飛び交いポガダガリ村の成り立ちや日々の生活を支 える農業、過去の問題とその解決手法、またそれらにとどまらず彼らの生活様式や食事と宗教の 関係など単純な質問から文化背景といったことまで聞き出せるようになっていた。ホームステイ では食事を3食提供していただいたが、どれもが客人用に作ってくれたものであった。基本的に は白米とカレーが食事のスタイルの中心であった。また、そこで出される野菜は全て自分たちで 農業で作ったものであった。生活をともにする中で、水汲み等も手伝い彼らの生活を実際に肌で 感じることができたが、言葉が全て通じなくても表情や仕草で通じ合えることがわかり、環境は 違えど同じ人であるということを改めて実感できた貴重な経験となった。

 

研修5日目

5日目は基本的にはホームステイ先からの移動が主な行程であり、途中で重要文化財に指定さ れているヒンドゥー教の寺院を見学した。この時期はちょうどシヴァ神の祭りが開催されており、 朝から晩まで寺院の周りは多くの人で賑わっていた。また明朝には海で体を清める人の姿も大勢 見られ、今までの研修の朝の景色とは異なる風景を見ることができた。インド人の生活様式は宗 教が中心であることを強く感じた経験となった。

 

研修6日目

最終日は滞在先のホテルで全ての研修内容の振り返りが行われた。この研修を通じて学んだこ ととして、私が報告したのは2つあり、1つ目が共通認識が異なる相手の現状や本質的なニーズを 引き出すための質問を思案する難しさと、2つ目は自分の思考を常に疑い偏見を持っていないか 思案することの大切さである。これらについて、例えば、アリロワのスラムを訪問した時に、水 が30分しか出ないことが質問を通じて判明したが、仮に「水道は使える」とだけ回答を受け、 そして私たちが住んでいる日本では水がどこの地域でも大体24時間使えることから、勝手にこ の地域でもそのような提供が為されていると思い込んでしまっていた場合が考えられる。つまり この場合水の頻度についての質問は概念として存在しないために、相手方に質問することができ ない。したがって真に相手の生活や状況、問題を把握することができないことになる。そうした 状況で得た事実は、真の問題を発掘する上で有意義なものにはなり得ない可能性がある。私はこ の研修を通じこのような自体が起きないように、質問する側が適切な事実質問をし、真に相手が 直面している事実や問題を探る努力を今後もしていきたいと考えた。  研修の最終日には参加者それぞれが学んだことを共有しあい、最後にNPOの方からのコメント をいただいて終了した。

 

今後について

私は本研修での事実質問の練習を通じて、上記のように協力相手と一緒に問題を解決するた目 にグループを組む場合にはお互いの共通認識・土台をもつ必要があるということがわかった。ま たその共通認識を作るためには、お互いの意見ではなく実際に直面している事実の情報が大切で あるから事実質問を継続して行うことも大切であると理解した。私は今後、全従業員の半数以上 が外国人労働者であるような企業でITコンサルタントとして働く。コンサルタントはチームで作業 に取り掛かり、また担当する案件も国内外問わないことから様々な価値観を持つ、育ちも異なる 人々とチームを組んでいくことになる。加えて何よりもコンサルタントはクライアントの課題発見 や解決が主な仕事になる。今後はこの研修で培った事実質問のスキルを活かし、相手の真の問題 発掘を行い最良の課題解決が提案できるよう邁進したいと考えている。

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