蛯子准吏(北海道大学公共政策大学院教授)


  少子高齢化、エネルギー・環境、教育等に関する社会的課題の解決に向け、情報通信技術をどのように活用するか、その具体的な方策を、国、地方自治体、民間企業等とともに研究しています。
 従来は、情報システムは事務の省力化のために設計・導入されていました。停止等、正常稼働しない影響を除けば、情報システムそのものが直接社会に与える影響は限定的であったと言えます。常に変化する開放系の社会システムと、定型的な事務処理を対象とした閉鎖系の情報システムは、同じ土俵で議論する対象にはなり得なかったと言えるでしょう。しかし、近年の情報通信技術の急速な進歩に伴い、情報システムは様々な分野に広く浸透し日々の生活においても情報システムの存在を意識するまでになり、社会システムのあり方にも大きな影響をあたえています。公共政策の創造にあたり、法制度のデザインに加え、情報の利活用のあり方をデザインすることが求められる時代を迎えつつあるのです。
 グローバル化・少子高齢化社会の進展に伴い、我が国は世界最先端の社会的課題を抱える国になりました。これらは、各々が関係し複雑に絡み合った構造的課題です。解決にあたってはその構造、すなわちシステムに対する理解が必要になります。本大学院は、「文理融合」の理念のもと、現在社会が必要とする公共政策の担い手を育てることを使命としています。文系、理系ともに専門性や言語の違いこそあれ、事象の観察を出発点とし新たな価値を創造する活動の多くには重なり合うものがあります。全く専門性が異なると捉えられている「法制度」と「情報」も、システムという枠組みから観察することで、両者を結びつけることが可能になります。これまで学んだ学問領域に加え、システムの観点から様々な事象の背景にあるものを読み取り、その解決に向けた具体的方策たる公共政策を創造できる政策プロフェッショナルになるべく、深い構想力と実現力を本大学院で磨いて欲しいと思います。

小磯修二(北海道大学公共政策大学院特任教授)


 私は公共政策大学院で北海道開発政策論を講義しています。講義では、北海道での開発政策だけでなく、わが国の国土政策や地域開発政策についても幅広く考えていくこととしています。
 ここでは、わが国に甚大な被害をもたらした東日本大震災。この経験をわれわれは歴史的教訓として、国土政策、地域開発政策としてどのように受け止めていくべきかについて考えてみました。趣旨は、平時の社会システムと非常時の社会システムの健全なバランスを取りながら日本社会や国土のあり方を考え、再構築していく必要があること、その中で今改めて地方の役割を再評価して必要があるということです。

1 国土政策、地域開発政策の意義
 国土政策や地域開発政策の意義は、バランスのとれた健全な国づくりにあります。社会の仕組みを市場メカニズムだけに任せると、人、物、金の資本は市場の中心となる大都市に集中し、地方の健全な発展が阻害されてしまいます。国土政策や地域開発政策は、市場メカニズムに委ねておくと顕在化する地域間のアンバランスを是正する政策ともいえます。しかし、国全体の経済発展を目指していく立場からは効率的な国土構造が求められ、ややもすれば大都市集中型の構造になり、また画一的な国づくり、地域づくりになる傾向があります。国土政策や地域開発政策を進めることの意義は、一つの国の中に幅広い多様性のある地域社会を生み出すことにより、力強く、また魅力のある国づくりを実現することにあります。
 また、今回のような大災害が首都圏に発生した状況を想定すれば、過度に中枢機能が一極の大都市部に集中する国土構造は国づくりの政策としては大変もろいものです。国土の安定的な管理や健全な発展という側面からもバランスのとれた国土づくりが重要です。さらに、現在のわが国は、大都市部は元気で勢いがあるのに比べ、地方の疲弊が加速しており、大都市と地方の所得、雇用機会などの面でも格差が広がっている状況があり、このアンバランスな状況は長期的には国力の低下を招いていくことになります。
 さらに、国土政策や地域開発政策を進めるために作成される総合計画には長期的、マクロ的な国づくりの指針を構築する役割があり、政策の幅と質を高めることにもつながります。国土政策、地域開発政策の基軸は未来に対する洞察力にありますが、未来を見据えた長期的な予測力というのは総合的な政策の力が求められるものです。現状の分析力や歴史的な検証力に加えて、多分野にわたる政策分野の調整力も必要です。このように良質な政治を進めていく上でも、科学的な分析力と長期的、体系的な国土観を醸成していく国土政策、地域開発政策の存在意義があります。

2 国土政策の衰退
 しかしながら、近年、わが国の国土政策や地域政策は次第に衰退してきています。
 戦後、わが国は戦災復興から高度成長と、大変な速さで経済発展を成し遂げた一方で、あまりにも成長のスピードが速く、国土構造のひずみが生じました。わが国が加工貿易立国として世界市場に展開していくために、国内の産業立地や大規模港湾は利便性の高い大都市部に集中して整備されました。その結果、多くの労働者が地方から大都市部に集まり、所得をはじめ、さまざまな分野で都市と地方の格差が広がり始めたのです。そこで、経済発展政策とは別の政策スキームとして、所得や社会基盤など、都市と地方の格差を是正し、バランスのとれた国づくりを目指す「国土政策」が展開され、「全国総合開発計画」をはじめ、北海道の「北海道総合開発計画」など長期的な地域総合開発政策が進められるようになりました。これらの政策は、社会資本整備を中心にした長期的な施策を体系的に全国にバランスよく配置し、国内の格差を是正していく取り組みでもありました。その結果、1960年代後半から、‘70年代、‘80年代にかけては大都市と地方の格差は着実に縮小していきました。
 しかしながら、’80年代後半になると市場メカニズムを重視する政策が登場してきます。これは当時の世界的な潮流でもある、政府の役割を控えめにして「小さな政府」を目指す動きで、英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権などです。当時は、アメリカ・シカゴ学派の経済学者ミルトン・フリードマンなどによる、市場主義を中心に、経済活動は民間に任せ、小さな政府を目指す考えが主流となっていました。わが国もその影響を受け、特にバブル経済破たん以降になると、経済合理性を重視する構造改革と呼ばれる政策が展開されていきました。そこでは地方に対する公共投資政策への批判もあいまって、次第に目先の効率性で評価される大都市を重視した政策にシフトしていきました。その結果、大都市圏と地方圏の格差が拡大し、東京を中心とする首都圏一極集中という構造が再び強化されるようになってしまいました。

3 平時の論理、非常時の論理
 力強い国や地域づくりのために必要な政策に求められるのは、「平時の論理」と「非常時の論理」の健全なバランスです。
 平時の論理では、いかに無駄を省いて効率よく合理的に物事を進めていくかが求められ、市場メカニズムが重視されます。これは小さな政府を目指す方向ともいえるでしょう。また、物事を機能的に処理するため、縦割り構造が基本となり、効率的な処理ができる大都市重視の論理ともいえるでしょう。
 一方、非常時の論理はいざという時に備えるために、長期的、巨視的な視点が求められます。リジリエンス(resilience=回復力のある)という言葉、概念が、今回の大震災を契機に注目されるようになりました。国土政策という視点からは、このような有事、非常時を視野に入れた柔軟な考え方、視点が重要で、いざというときに強い、強靭(きょうじん)な国づくりに向けて、地方の多様な役割を重視していく考え方が大切です。
 いずれにしても、国づくり、地域づくりでは平時の論理と非常時の論理のバランスを保った政策が必要です。しかし、戦後66年を振り返ってみると、次第に平時の論理が支配するようになってきており、その結果、国土や経済社会が有事にもろい構造になってしまってきているように感じます。それを明快に教示してくれたのが、東日本大震災ともいえるでしょう。
 また、無駄を省く効率的な発想を求める平時の論理からは、長期的な視野に立った独創的な発想が生まれにくく、自由で大胆な発想で国づくり、地域づくりを担う人材育成の面からも、非常時の論理思考を持つことは大切です。
東日本大震災の経験は、平時と非常時の論理という視点で、改めて地方の役割を再評価しながら、これからの国づくり、国土創生に向けた政策の再構築を議論していく時期であることを示唆しているのではないでしょうか。

注:本稿は、「国土の復興、創生と北海道」(『マルシェノルド』(「開発こうほう」地域経済レポート特集号)2012年3月号への寄稿)から抜粋したものです。関心のある方は、本文をご覧ください。
(「開発こうほう」地域経済レポート特集号)2012年3月号

山崎幹根(北海道大学公共政策大学院・院長)

北海道から何を発信すべきか


昨今の政治の争点には、TPPをはじめとしたグローバル化への対応、道路や空港などのインフラ整備、原子力に頼らないエネルギー需給など、北海道を含め地域のありかたを大きく左右する政策が少なくありません。これらは、全体として、経済をいっそう自由化させるとともに、大都市の力を伸ばそうとする方向にはたらいているようにも見えます。しかしながら、こうした政策は中央の政治で、あるいは地方の政治でも、どれだけ深く語られているのでしょうか。確かに、個別の政策についての利害から賛否の声が上がっていますし、問題点や課題も数多く指摘されています。
一方、最近の北海道は政治的にも、経済的にも元気がなく、北海道をとりまく環境も厳しさを増しているようにも感じられます。こうした状況にありながらも北海道という地域社会を維持し、発展可能性を追求するためには、いっそう長期的な視点に立つとともに、中央レベルの政治や行政に対抗し、説得力を持った政策議論を北海道の側から発信することが求められているのではないでしょうか。

北海道の個性を活かした政策をどのように打ち出してゆくか――実は、全道各地の実践に目を向けてみると、ヒントとなるような新しい視点で北海道の特性に着目し、地域の魅力を高めようとする動きがみられます。一例を挙げれば、道東の釧路市が数年前から積極的に進めてきた夏季の長期滞在の実践があります。釧路の夏は余りに涼しく(8月でも平均気温が20度以下)、霧が多いことから地元の人々からは余り好まれてきませんでした。しかしながら、本州の猛暑で苦しんでいる人々にとっては別天地です。近年では、釧路の魅力が知られるようになり、個人滞在者のみならず学会やスポーツ大会の開催も増えています。こうして避暑に止まらず、地域経済の活性化、新たなライフスタイルの提案、そして電力の節約と、さまざまな政策効果が生み出されることが期待されています。

北海道は、首都圏から遠隔の地にあり、積雪、寒冷であるとともに人口密度が低く、多くの不利条件を抱えています。さらに、札幌圏以外の道内の各地域は、いっそうの困難な課題を抱えていることが指摘されています。ところが、一見不利に見える条件を強みに代える発想をすることによって、北海道には他の地域にはない多くの魅力と可能性を引き出すことができるのです。そのためには、無論、道外の人々なみならず、アジアをはじめとした海外の人々に対して、北海道の魅力を伝えるいっそうの工夫も必要となります。
いまこそ北海道の地域特性を最大限に活かした政策づくりと、中央に向けて積極的に発信する行動力が北海道の側にも求められています。今回の参議院選挙に際しても、個々の政治家、そして政党がわれわれに何を語るのかをしっかりと注視してゆきましょう。

高野伸栄(北海道大学公共政策大学院准教授)


公共事業やそれを取り巻く、行政・業界を見る市民の目は厳しい。調査によると、大規模な入札改革をしてもなお、多くの市民は入札に関わる不透明感、行政・業界への不信感を示す。これに対する対策として、住民が入札に加わり、建設業者が行うプレゼンを評価し、それを基に落札者を決める住民参加型入札を試行してきた。この結果、住民は参加前と比べ、入札制度や公共事業に対する信頼感を高めることが明らかとなった。発注者は建設業者の技術力を、住民は建設業者に対する信頼感を評価することによって、より優れた業者の選定が可能になると同時に、住民がインフラを「行政から与えられるもの」から、「自らの税金で我々が作り出すもの」という意識の転換が起きる可能性があると考えられる。これらの試行結果について調査結果を用いて解説する。
吉田 徹(北海道大学公共政策大学院准教授)

北大公共政策大学院(HOPS)では、6月29日に 「地方の/からのガバナンス」と題したシンポジウムを開催します。
 参院選が間近に迫っていますが、各党がどのような争点でもって戦うのか判然としないまま、有権者の関心もいまひとつ低いままに留まっています。しかし、参議院は日本政治の中で、地方を代表する役割をも担っている重要な機関のひとつであり、今日、地方が置かれている状況を考えた場合、参院選はひとつの大きな転機であることは間違いありません。
 例えば、最近では「一票の格差」が問題になっていますが、この格差はとりわけ都市部と地方の間の人口の密集度が異なることから来ています。ここから、大阪府と神奈川県などを比べた場合、後者の方が人口が多いにも係わらず、前者に配分されている議席の方が多いなどの現象がみられます。いうなれば、参院選を通じて「代表性はいかに実現されるのか」という問いが突きつけられているといっても過言ではありません。
 また他方では、この参院選では、インターネットを利用した選挙運動が初めて解禁されることになります。一般的に言って、地方における若年層の投票率は低い傾向が見られますが、ネット選挙の解禁は、若者の政治参加にどのように影響を与えるのかも、注目されるところです。
 シンポジウムでは、こうした問題意識から、2人の論客をゲスト・スピーカーに迎えることにしました。
 政策研究大学院の竹中治堅教授は、『参議院とは何か』(中央公論新社、第10回大佛次郎賞受賞)で、それまで学界でも十分に検討されてこなかった参議院の役割を史的に実証した政治学者であると同時に、英米政治などとの比較の観点から日本政治を論じている気鋭の政治学者です。また立命館大学で情報社会論が専門の西田亮介准教授は、『統治を創造する――新しい公共・オープンガバメント・リーク社会』(編著、春秋社)で、個人化が進み、情報が拡散する現代社会で、どのように「開かれた統治」が可能なのかを、多くの若い実務家・研究者・運動家とともに探っています。最近では、ネット選挙解禁の意義がどこにあるのかということについての本も出版されています。
いわば制度論と実践論の組み合わせから、どのように地方政治の現場を捉えなおし、構築させていくことができるのかを考えることがシンポジウムの目的のひとつです。シンポジウム後半では、竹中氏と西田氏の問題提起を受けて、北海道の政治行政のスペシャリストがラウンドテーブル方式でディスカッションを繰り広げます。
シンポジウムは、参加費・予約不要です。是非とも、疑問や意見を見つけに、そしてぶつけにいらしてください。

若生幸也(北海道大学公共政策大学院専任講師)

2012年12月6日に北海道芽室町議会議員研修会にて、「議会のICT化戦略を考える」というタイトルで、研修を行いました。 芽室町議会と北海道大学公共政策大学院の 包括的連携協定の枠組みの中で実施された研修事業です。そもそもICTとは、「Information and Communication Technology」(情報通信技術)の略称であり、従来使用されていたIT(Information Technology)よりも双方向性(Communication)をより重視した用語として使用されることが多くなっています。

研修会で使用した資料はこちらです。もし御関心のあるかたは御覧ください。

今回芽室町議会議員の皆様にお話しした内容の基礎となる内容は、 「住民参加とオープンガバメントを活用した地方議会改革」『政策研究(2010年10月号)』に掲載されています。こちらももしよろしければ御覧ください。

内容は資料を御覧いただければと思いますが、住民・地方議会・執行部門との関係や地方議会と執行部門との比較を行った上で、地方議会の役割を多様な民意を吸い上げ議論する「議」会としての役割を強く持つべきだと指摘しています。しかし、「議」会では、住民意思代表機能の低下や議員間討論の不足等の問題が発生しています。

この課題解決の方向性として、①議論方法の定式化、②住民参加の導入、③基盤となる情報化などを挙げて、①議員間議論による政策形成プロセスの定式化、②住民参加の戦略的活用法、③政策形成プロセスに応じた情報通信技術の活用等を整理しています。特に政策形成プロセスでは、議員間討議を促進する政策形成プロセスを構築している会津若松市議会の事例を取り上げ、そのプロセスを定式化しています。

次に、先進的な地方議会の取組みとして 千葉県流山市議会三重県鳥羽市議会の事例を挙げて、その取組みを(1)住民と地方議会との接点拡充と(2)議会内部の効率化、に分けて整理しています。

(1)については、流山市議会でも鳥羽市議会でも様々な取組みをされており、特に今まで地方議会に関心の低かった住民に対して様々な情報発信手法を展開しています( 鳥羽市議会では若年層に人気のあるLINEを活用し情報発信を行っています)。

(2)については、流山市議会ではスマートフォンによる電子採決や議会オープンデータトライアル、鳥羽市議会では議会内での無線LAN整備やデータ共有フォルダの設定、議場内での電子データ投影等を実現しています。特に鳥羽市議会の取組みは一見地味なように見えても、情報通信技術を活用することができる議員にとっては非常に有効な手法を実現しており、参考になる取組みと言えます。

その他、オープンガバメント手法を概略的に紹介し、どのような情報通信技術が地域課題解決につながる可能性があるのかを説明しました。

最後に以下のようなまとめを行い、研修を終了しました。
  • まずはできることからはじめることが重要
  • 議会内部の効率化の観点からは、タブレットPC等を活用した資料の電子化等は緊急時対応等のFAX送信など事務局の負担を軽減する可能性があり有効(電子投影も住民の理解度を高めるには必要)
  • 情報発信の観点からは、最も中心となるのはウェブサイトの再構築。ただしおおむね有償となることから、即時的な情報発信が必要なものはツイッター・フェイスブック等の利活用が現実的
  • ただしツイッター・フェイスブック等で一方的に情報を流すだけでは、あまり情報通信技術活用が進んでいるとは言えない
  • 本来的には住民参加拡充の手段として情報通信技術活用を位置づけ、住民との意見のやりとりをどのように行うかが検討されるべき。少なくとも住民が意見を書き込むフォーラム的機能が必要
  • 執行部門も含めて、データを加工可能な状態で開いていくことも関心を高めるには重要(個人情報保護との整理が必要)
  • 情報通信技術を活用する意義は、主に以下の3点に分けられます。


第1に、平日などに地方議会の議論の傍聴等、参加したくても参加できない住民に対して、情報を発信すること、そして意見を収集することが挙げられます。つまりサイレントマジョリティの声なき声を拾い上げ、議論の場に参加できるフォーラムを用意することが重要だと考えています。

第2に、議会事務局等も含め、少ないリソースを最大限活用するための地方議会内の効率化手法に取組むことが重要だと思います。その点で鳥羽市議会の取組みはよい方向性を示しています。

第3に、(これは玄人向きですが)データを加工可能な状態で支障のない範囲で開いておくことは、(少なくとも)研究者等の研究対象になりやすく当該地方議会の取組みに対して関心をひく可能性があります。

このような議論を行った上で質疑応答に入りましたが、住民モニターや議員から様々な質疑を頂き、こちらも大変勉強になりました。これから芽室町議会では議員会を中心にICT化戦略を構築するようですので、北海道大学公共政策大学院の包括的連携協定に基づき、サポートさせて頂きたいと考えています。

(2012.11/6更新)
生沼 裕(北海道大学公共政策大学院教授)

周知のとおり、近年、地方分権改革の進展に伴い、全国の自治体においていわゆる「政策法務」=「法を政策実現の手段ととらえ、そのためにどのような立法・法執行・争訟評価が求められるかを検討し実行する、実務及び理論における取組み(礒崎初仁)」の取組が拡大してきている。そのような中、全国市町村国際文化研修所(JIAM)では、数年前より「自治体職員のための政策法務」と題して、5日間(本年度は8月6日~10日)の政策法務研修プログラムを企画・実施しており、先日、久しぶりに講師として当該研修を担当させて頂いた。本研修では、講義の他、条例事例演習(神奈川県受動喫煙防止条例、広島市暴走族追放条例)、条例立案演習(空き家適正管理条例、ペット霊園規制条例)を行ったが、全体を通して熱心に研修に取り組む受講生の姿に接し、大変うれしく感じるとともに、これを契機として、今後是非、自学を継続していってもらいたいと思った次第である。

そこで今回は、「政策法務」を自ら学ぶ際に最適な書籍を数点紹介したいと思う。

まず、1冊目は、 『政策法務事典』(兼子仁、北村喜宣、出石稔/共編、ぎょうせい、4,800円)である。本書は、発展途上にある自治体政策法務について、様々な問題項目を網羅的に整理し、判例や先駆事例、コラムなどを交えながらわかりやすく解説している。第一線で活躍する研究者と自治体職員などが分担執筆しており、理論と実務の両面を兼ね備え、また、巻末の事項索引により、名の通り、政策法務「辞典」として活用できる重宝な一冊となっている。

2冊目は、 『自治体政策法務 — 地域特性に適合した法環境の創造』(北村喜宣、山口道昭、出石稔、礒崎初仁/編、有斐閣、4,200円)である。本書は、「自治体政策法務」として、2009年6月から2010年11月にかけてジュリスト誌に掲載された連載を一冊に編集したものである。日進月歩の自治体政策法務を牽引する研究者、弁護士、自治体職員などが自治体政策法務の重要論点45項目をそれぞれ分担執筆しており、多様な視点から踏み込んで論じられた各論文は、実務的にも有益な情報を数多く提供している。

言うまでもなく、政策法務を学ぶ上で、行政法の知識は必要不可欠である。

そこで3冊目は、ずばり 『行政法』(宇賀克也/著、有斐閣、3,150円)である。日本を代表する行政法学者である著者が、行政法について基礎から学ぶ際のテキストとして執筆したものであり、難解と思われている行政法のはじめに押さえるべきエッセンスをわかりやすく解説している。各章の最初に要点がまとめられ、重要箇所はゴシック体で示され、コンパクトでありながら重要判例なども多数掲載されている。また、有り難いことにテキストの理解に必要な関連条文も随所に掲載されている他、社会的に注目を集めた事件などのコラムも充実している。行政法の入門書として最適なテキストと言える。

この他にも政策法務関連の書籍は近年続々と刊行されている(例えば、政策法務知識の基礎を学ぶ推薦図書としては、 『政策法務の基礎知識-立法能力・訟務能力の向上にむけて(改訂版)』(幸田雅治、安念潤司、生沼裕/著、第一法規、2,205円)や『自治体法務検定公式テキスト(自治検)政策法務編 [平成24年度検定対応]』(自治体法務検定委員会/編、第一法規、2,940円)など)。これらの書籍の多くは、執筆者として実務家や実務家出身の研究者なども多数参加しており、理論と実務両面に配慮した構成となっている。自学自習に最適な書籍類としてお勧めしたい。

【全国市町村国際文化研修所・機関誌「国際文化研修」77号に掲載】

小浜 祥子(北海道大学公共政策大学院准教授)

アメリカの国際政治学者で、ニューヨーク・タイムズが「21世紀のノストラダムス」と呼んだニューヨーク大学教授のブルース・ブエノ・デ・メスキータが著書の中で、大学での教育について次のようなことを言っている。

「私とニューヨーク大学の同僚たちがやりたいのは、問題に取り組む方法を学生に教えること、問題解決のための訓練をきちんとほどこしてから彼らを世の中に出すことである。自分が事態を良くしているのか、それとも悪くしているのかもわからず、ただものごとを掻き乱すだけの人間を、世界に送り出したくないのである。」

『ゲーム理論で不幸な未来が変わる!(The Predictioneer’s Game)』(徳間書店、2010年)、19頁

大学院に入ったからには、知識を吸収・消費するだけではなく、その一歩先、様々な問題に対して自分なりの解決策を考えだし、それを人に伝えるための力を身につけてほしい。ブエノ・デ・メスキータが言っているように、そのためには訓練を積むことが必要だ。以下に今日から実践できる簡単な例をいくつか挙げてみる。

言説を変数とロジックに分解して分析してみよう:「戦争の原因は人間の本性にある」というもっともらしく聞こえる言説を分解してみよう。この言説を構成している要素は【人間の本性】と【戦争】だが、【人間の本性】は変わらないもの(定数)だ。変わらないもの【人間の本性】は、何かの変化【戦争or平和】を説明することはできない。

■データがどのように集められているかに注意しよう:
  • ある新聞記事。「対外援助が国内の政治改革に結びついた事例ではNPO・NGOが大きな役割を果たしている。彼らの働きは今後の援助の成功に不可欠だ。」これも一見もっともらしいが、よく考えてほしい。成功した事例の共通項を探すなら「酸素がありました」という結論でも良いことにならないか?この記者はNPO・NGOが参加しても失敗した事例を無視していないだろうか?「○○が起こった」事例だけをいくら注意深く調べても、正しい分析には行きつかないのである。
  • テレビの世論調査。「電話で300人にアンケートをとったところ、70%の人が政府による子供手当の拡充に賛成した。国民はこの政策を支持している。」いつ、誰に電話をかけたのだろう?昼間に家にいる人の多くは主婦主夫や高齢者かもしれない。とすれば、特定の人々の意見しか反映されていないのではないか?
  • 政治家の発表。「私の政策の成果として、貧困世帯の数が10%減少しました!」まず最初に貧困世帯の定義が変わっていないかチェックしよう。昔より基準が厳しくなっていたら、貧困世帯数の減少は政策の成果ではないかもしれない。


■クラスで発表・発言する時には、プロフェッショナルであれ:「自信はないのですが・・・」「きちんと準備できていないのですが・・・」などと枕詞のように言うのはやめよう。謙虚さは美徳かもしれないが、話し始める前から言い訳をしているようではプロフェッショナルな態度とは言い難い。恥をかきたくないからとりあえず言い訳をしてハードルを下げようというのも、(気持は分かるが)なんだか卑怯である。「自信はないが、これがおススメ」などと言う店員から製品を買おうと思う客が少数であるように、言い訳だらけの発言では人々を説得することは難しいだろう。

以上、思いつくままに色々なことを挙げてみたが、今後のクラスなどで役に立ててもらえたら嬉しい。この続きはHOPSの授業にて!

(2012.9/3更新)
松本 勝明(北海道大学公共政策大学院公共政策学研究センター長・教授)

外国に住み、外国で働く日本人、日本に住み、日本で働く外国人は、国際的な経済環境の変化などに伴い今後ますます増加すると予想されます。このような人々にとって、生活の安定に欠かせない医療・介護のサービスや年金などを受け取ることができるかどうかは重大な問題です。しかし、社会保障制度は基本的に各国においてそれぞれの国内制度として定められており、必ずしも各国間での整合性が図られているわけではありません。

このため、国境を越えて移動する人は社会保障制度による適切な保障を受けられない可能性があります。例えば、日本の老齢年金を受給するためには、年金制度に加入、原則として25年以上保険料を納めた期間などがなければなりません。したがって、生涯を通じて40年間働いたとしても、日本で年金の保険料を納めた期間が25年に満たない場合には、日本の年金を受給することができなくなる恐れがあります。

社会保障を支える人材についても、経済連携協定(EPA)に基づき、日本での不足が問題となっている看護師・介護士の外国からの受け入れが進められています。しかし、これらの人々が日本で資格を取得し、職場に定着するには様々な問題があることが指摘されています。

このような問題を解決するため、たとえば、EU加盟国の間では、域内での労働者の自由移動を促進することを目的として、国境を越えて移動する労働者などのために、共通のルールに従って医療、年金、失業、労災などに関する給付の加盟国間での調整が行われています。また、看護師等の職業資格を加盟国間で相互に承認する仕組みも設けられています。

日本と欧米諸国との間では、1998年にドイツとの間の協定が締結されたのを皮切りに社会保障協定の締結が進められています。社会保障協定は、現地の日系企業に派遣される従業員等の年金制度への二重加入を防止し、年金制度への加入期間を両国間で通算することなどを目的とした二国間協定です。しかし、これだけで全ての問題が解決されるというわけではありません。

そこで、国境を越える人の移動に対応することのできる社会保障の在り方を検討しよう考えています。多くの外国人労働者を受け入れてきたドイツなどの経験や議論をもとに研究を進め、日本において生じる可能性のある問題点を明らかにし、その解決のための政策の在り方を提示することにつなげたいと思います。
(2012.8/20更新)
生沼 裕(北海道大学公共政策大学院教授)

「地方自治」を深く学ぶ上で、「政治学」の基本的な知識は必須と言ってもいいだろう。例えば「地方自治は民主主義の学校」とよく言われる。しかしながら、誰もが当たり前だと思っている、この「民主主義」という言葉の意味は、実に奥が深い。

そこで、今回は、「政治学」に関する数多の図書の中から、現代政治学や現代政治理論を網羅的・体系的に解説している最新テキスト2冊と、最先端のデモクラシ-論の一つである「討議デモクラシ-」の実践を紹介している近刊1冊をご紹介したいと思う。

まず一冊目は、 『現代政治学 第4版 』<有斐閣アルマ>(加茂 利男、大西 仁、石田 徹、伊藤 恭彦 (著)、有斐閣、1,995円) である。本書は、政治学の定番テキストの最新版であり、大学の「政治学概論」や「政治学原論」用のテキストとしての活用を念頭に、政治学の主な領域(例えば、政治体制、政治制度、政治過程、公共政策、政党制、政治意識・政治文化、国際政治など)の重要な知識を網羅的・体系的に解説している。また、入門書ではあるが、政治学の新しい研究成果を反映させ、現実の政治を政治学的に捉え、考察する上での有用な視座を多く提供している。

二冊目は、 『現代政治理論 新版』<有斐閣アルマ> (川崎 修、杉田 敦(編)、有斐閣、2,100円) である。リベラリズムやデモクラシーに関係するテーマを中心に、現代の政治理論の重要な主題や概念(権力、自由、平等、正義、公共性など)を取り上げて、ともすると抽象的で難解になりやすい政治哲学の世界をわかりやすく解説している。例えば、「第5章 平等」では、ハーバ-ド大学のサンデル教授のいわゆる「白熱教室」のテレビ放映により一般にもよく知られるところとなったロールズの「正義論」を端緒に、平等で公正な社会とは何かという難問に対し、現代リベラリズムの代表的な諸理論がどのように展開されてきたかが詳しく解説されている。また、「第6章 デモクラシ-」では、古代から現代に至るデモクラシ-観の変遷を思想史的に辿りながら、対話による合意形成を重視する「討議デモクラシ-」や意見対立の表出を重視する「ラディカルデモクラシ-」といった新しいデモクラシ-論が紹介され、次の三冊目の図書を理解する上でも有意義な一冊となっている。

最後、三冊目は、 『討議デモクラシーの挑戦――ミニ・パブリックスが拓く新しい政治』(篠原 一(編) 、岩波書店 、2,940円) である。最新の市民社会論やデモクラシ-論を紹介しつつ、現在の政治社会の変容を歴史的文脈の中で分析し、新しい社会像、政治の形を展望した『市民の政治学―討議デモクラシーとは何か』 (篠原 一(著)、岩波書店、756円)の続編とも言える図書である。代表制民主主義を補完し、熟慮された民意を政策に反映させることをめざす「討議デモクラシー」の具体的な試みとして、ランダム・サンプリング(無作為抽出)された市民(ミニ・パブリックス=社会の縮図)による討議の結果を政策決定に活用しようとする社会実験が、日本を含め世界各地で実施されている。その原型とされる4つの手法(討議型世論調査、コンセンサス会議、計画細胞会議、市民陪審)の詳しい解説の他に、日本でも徐々に広がりを見せている市民討議会(日本版ミニ・パブリックス)などの取り組みも紹介されている。

なお、同じくデモクラシ-を主題とした図書としては、『民主主義という不思議な仕組み』(佐々木 毅(著)、筑摩書房、798円) や『変貌する民主主義』(森 政稔(著)、筑摩書房、819円)などもお奨めである。前者は民主主義についての入門書として、後者は民主主義思想の複雑な諸問題を深く考察する上で好著と思われる。

【全国市町村国際文化研修所・機関誌「国際文化研修」76号に掲載】


町野 和夫(北海道大学公共政策大学院・教授)

公共政策大学院(HOPS)には開設期の2005年4月から2007年3月まで2年間お世話になって以来,5年ぶりの復帰ということになります。2005年に経済学研究科から参加したのは,HOPSの設立準備にも尽力された大先輩お二人と,たまたまもう一人誰かということで加わった私の3人でした。さらに担当がミクロ経済学という,政策関連科目でなかったこともあり(もちろん一生懸命やっていましたが)今から思うと気楽な2年間でした。今回5年ぶりに戻ってみると,経済学研究科からの3人の中で飛び抜けて最年長で,担当科目も経済政策論という前提科目ですので責任の重さを感じています。経済学研究科の年齢構成の関係で,ちょうどこの間,多くの団塊の世代の方々が退任されて,世代交代が進んだという事情もありますが,僅か5年間でこうも大きく違ってしまい,玉手箱を開けた時の浦島太郎の心情が分かるような気がします。

5年前にHOPSから経済学研究科に戻った後,突然,予想もしていなかった研究科長になってしまい,まったくの別世界に連れて行かれたことも浦島さんへの共感の原因だと思います。ただし浦島さんの行った楽しい龍宮城とは違い,研究科長室は,日本他の公的組織・企業と同様,本社機能(大学本部と見るか霞が関と見るか永田町と見るかは人それぞれでしょうが)がうまく働かず現場が無駄に苦労するという問題や,小学校から大学までの他の教育機関と同様,少なからぬ数の学生,職員,教員が,心の悩みに苦しんでいるという問題に囲まれて,浦島さんとは別の意味で世間とは隔絶した世界でした。

そこでの話は別の機会に譲るとして,浦島太郎ならぬ2学期の経済政策論担当教員としては,半年以内に(日本経済について落ち着いて考える暇がなかった)浦島太郎状態から回復しなければなりません。そこで私が公共政策大学院を離れた5年前からの経済の動きを簡単に振り返ってみたいと思います。これは,あまりに大きい昨年の東日本大震災と福島原発の事故のインパクトのために,もしかすると一種の浦島太郎状態になっているかもしれない皆さんのためにもなると思います。

5年前に日本が置かれていた状況を思い返してみると,内閣総理大臣は小泉さんから安倍さんに変わったところで,経済は2002年から始まった(弱々しいとはいえ)景気上昇局面が続いており,この上昇局面は2007年前半まで続くことになります。しかし,米国のサブプライム問題などで陰りが見えてきた世界経済は,リーマンショックという最後の一撃によって2008年には1930年代の大不況に比されるほどの不況に陥りました。幸いBRICsなどの新興経済諸国の成長にも助けられて,世界経済は予想以上に早く立ち直りつつありましたが,そこに,今回の震災と原発事故です。さらに一部のEU加盟国で長年燻っていた財政危機が表面化し,EU全体,さらには世界全体の経済の不安定化に発展しかねない状況です。このように世界や日本の経済は大きな試練に直面していますが,日本の政治は,各政権の経済政策が実施される前に総理大臣が毎年交代し,2009年の自民党から民主党への政権交代以降は整合的な経済政策立案さえ覚束ない混乱状態です。

以上の背景を踏まえて,2学期から「経済政策論」の授業を行うわけですが,そもそも「経済政策論」なる科目は北大の経済学研究科には存在しません。かつては北大にも昔の経済政策論(国家の行う経済に関する政策について論ずる)が存在したはずです。その後20世紀末頃までの,「経済政策」と言えば,ほぼ財政政策や金融政策などのマクロ経済政策を意味する時期を経て,現在は競争政策など伝統的なミクロ経済学的な政策に加え,様々な「市場の失敗」に対する新しいミクロ経済学的な政府の政策も「経済政策」に含まれます。財政学,金融経済学,公共経済学はもちろん,国際経済学,産業組織論,労働経済学,環境経済学など,余りに多くの分野の政策が経済政策に含まれるため,一人で「経済政策」を専門にすることは不可能であり,従って専門科目としての「経済政策論」はなくなったのだと推測します。(大規模な経済学部であれば,初学者・非専門家向けの「経済政策論」や上述の古典的な「経済政策論」を展開する余裕もあるでしょうが。)

書いているうちに気が重くなってきました。5年ぶりにHOPSに戻ってきた浦島太郎は,玉手箱を開けて気が付いたら高齢化社会の真っただ中にいたという(龍宮城のようなバブル経済に浮かれていた)他の浦島さんたちに,どのような生き残り戦略(経済政策)をお薦めしたらよいのでしょうか。10月に皆さんにお会いするまでの難しい宿題です。


宮脇 淳(北海道大学公共政策大学院院長・教授)

日本経済社会の活力構造が大きく変化しています。いわゆるパワーシフトの時代を迎えています。その主因は、周知のとおり少子高齢化とグローバル化の進展にあります。様々な資源制約が強まる中で、右肩上がりを前提として経済社会を支えてきた従来の活力構造が限界に達し、新たな構造を求めています。しかし、1990年代以降「失われた20年」と揶揄されるように、新たな構造を生みだすことができず苦悩から未だ脱しきれていません。

いわゆるパワーシフトとは、経済社会に存在する様々な影響力・行動力の相互関係が変化することを意味します。この模索には「政策の窓」を開くことが不可欠となります。「政策の窓」は、キングダム(Kingdon)によって指摘された事項であり、新たな構造を生みだす創造的政策を形成するためには不可欠な存在です。

「政策の窓」は、政策アントレプレナー(「政策アクティビスト」)の存在により開け放ちます。政策アントレプレナーは、企業家同様、将来の一定の成果を期待し、自らの理想に向かって実行性ある戦略を踏まえた様々な新たな政策を提案し議論する役割を担います。政策議論は、開け放たれた窓を通じて参加者相互の学習に結び付き、より質が高く実行性の高い政策へと進化します。市民、そして行政機関や大学自体が政策アントレプレナーとなり、社会的実験としての地域政策を展開することなどが例として挙げられます。このため、課題の提示や課題の優先順位の決定だけにとどまらず、問題・政策・政治の流れを相互に結びつけ、ひとつのパッケージにまとめ上げていく機能が不可欠となります。政策アントレプレナーには、常に多面的かつ優秀なアンテナを持ちつつ、政策の窓の状況を読みとりながら意思決定し、行動する資質が求められます。 これまでの中央集権体質の中では、地域の政策展開に対する政策アントレプレナーの存在は希薄でした。しかし、地域の価値・資源に根ざした政策を展開するには、地域の政策アントレプレナーが重要な役割を果たします。北大公共政策大学院は、行政職員に限らず広く政策アントレプレナーの資質を養うことを大きな目的とします。

「政策の窓」が機能するためには、問題の流れ、政策発想の流れ、政治の流れが一体化する必要があります。問題の流れとは様々な地域問題の中から政策発動を要する喫緊の課題の抽出の流れ、課題に対処する処方箋たる発想の中で政治が決定する対象となる流れ、そして最終決定者である政治からの賛同を受けられる流れの形成の三つが一体化するときに政策の窓が大きく開きます。

単なる問題提起や批判だけでは政策の窓を閉じたままとなり、思い込みの自縛を強く受け利害関係の対立を細分化し、細かく刻まれ分断された議論を押し進めるだけの結果となります。こうした結果が生じれば、価値の相対化が深刻化し公共性自体が空洞化する危険性があります。それは、多様化しアジェンダの数を増えるものの、アジェンダを解決する政策の絞り込みが機能しておらず、議論を従来以上に輻輳化させることにより生じます。議論は活発化するものの結論を見出すことのできない長いトンネル、混沌とした議論に迷い込みます。最終的には一定の段階で「権威による決断」が下され、決断から漏れたより多くの細分化された議論は、参加自体に対する空虚感を深める原因となります。そして、議論への参加者は政策形成への不信感をさらに高めます。こうした悪循環を克服し、政策議論を創造性の高いものとするには、細分化され分断化された議論を結びつける窓を開け放つ必要があります。本来、民主主義は時間を要するものであり、議論がある程度輻輳化することは避けられません。しかし、議論の充実のために、大きく欠けている要素、それが政策の窓を開くことにあります。職場の如何を問わず政策の窓を開ける人材の育成を、公共政策大学院は目指しています。

山崎 幹根(北海道大学公共政策大学院副院長・教授)
近年、地方議会をとりまく状況が大きく変わってきました。昨年の地方自治法改正によって、地方議会の定数の上限が撤廃され、自治体ごとに自由に議員定数を決めることができるようになりました。ところが現実には、地方議会の定数削減を公約として掲げる市長の登場や、住民の直接請求による定数削減の運動など、地方議員の数を減らすべきだとす圧力が全国各地で強まっています。
ところで、科学的、論理的に、正しい地方議会のサイズ、すなわち議員定数を導くことができるのでしょうか。古今東西の政治学の議論を振り返ってみても、管見の限り、明快な解答は見当たりません。

この問題に関し、私は、地方議員の定数を安易に減らすべきではないと考えています。最近では、若干の議員定数を、近隣の、あるいは類似自治体と「横並び的」に減らすことで、当座の世論の批判をかわそうとする地方議会がありますが、むしろ、議員定数を維持したまま、議会の役割について有権者の理解を得ることの努力の方が、困難を極めるのではないでしょうか。


あるべき議員定数を考える際には、「落としどころ」となるような人数を思案するよりもまず、いかに住民の理解と共感を得る議会、議員活動を実践するかを工夫することが大切だと考えます。膨大な業務を行っている自治体行政を常にチェックし、警鐘を鳴らすために議会で鋭い質問をしたり、そのための調査を行うことや、横暴な首長が登場した時にけん制役を果たすことが今日、いっそう重要になっており、こうした実践を行うためには一定の議席数を擁した議会が必要となります。無論、政務調査費をはじめ、議会活動に関して住民に対する説明責任や情報公開についての不断の努力が求められることは言うまでもありません。


このように考えると、現行の議員定数を基本にして議会活動の質を高めるために頑張れる余地はまだまだあるのではないでしょうか。本大学院で開催するサマー・セミナーにおいて、多くの方々と、これからの方策について話し合えることを楽しみにしています。


生沼 裕(北海道大学公共政策大学院教授)
自治体はいま、厳しい財政状況の下、創意と工夫を凝らしながら、少子高齢化や人口減少など社会経済環境の変化に対応し、様々な行政課題に取り組み、活力と魅力ある地域づくりに努力しています。
国においても、地域のことは地域に住む住民が責任を持って決めることのできる活気に満ちた地域社会をつくっていかなければならないとの観点から、「地域主権」の確立を目指し、これまでの分権改革の取組を一層加速することとしています。
こうした中、二元代表制の下、住民自治の要であり、自治立法権の担い手でもある地方議会の役割は、一層重要性を増してきています。しかしながら、一方で、知事・市町村長に比べ、地方議会・地方議員の活動がなかなか一般住民からは見えにくく、昨今の地方議会への批判的な報道等とも相まって、「地方議会不要論」や「議員定数・議員報酬削減」などが提起・議論され、これらの動きに危機感を持った一部の地方議会では、住民への議会報告会の開催や議員間討議の活性化、さらに、これらの取り組みを制度的に担保するための議会基本条例の制定など、地方議会改革の取り組みを加速させています。
そこで、北海道大学公共政策大学院(HOPS)では、このような地方議会の動きに呼応し、地方議会のさらなる活性化と地方議員の自己啓発・自己研鑽に貢献しようと、4年前、大学・大学院としてはユニークな取組となる地方議員向けのサマースクールをスタートしました。

本年も、現下の地方議会を取り巻く課題を踏まえ、内容をさらにバージョンアップして、第5期生を募集しています(申込期限:平成24年6月15日(金)まで)。


今年のサマースクールの特徴としては、
地方議会改革の動向と課題、議会基本条例制定の効果等について、研究者の研究成果(理論)と地方議会改革の当事者の生の熱い声(実践)を聞く機会を設けました。
公共政策大学院院生とNPO法人公共政策研究所が本年度行う道内地方議会へのアンケート調査結果(実態)について速報し、議会の活性化について参加議員との意見交換を行います。
公共政策大学院の多彩な研究者教員と実務家教員が、講師・ファシリテーターとして携わり、議員間の討議、意見交換・情報交換の時間をしっかり確保しました。
地方政治の活性化や地方議会の改革に志を抱く方々の積極的な参加を心よりお待ちしております。
≪サマースクールの概要≫

1.期 間  平成24年8月2日(木)~8月3日(金)
2.場 所  北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟(通称W棟)W409教室ほか
3.主 催  北海道大学公共政策大学院
4.後 援  北海道市議会議長会 北海道町村議会議長会
5.対象・定員  地方議員・地方議員を志す方   20名程度
6.主な講演内容

◆これからの地方議会改革(仮題)
北海道大学公共政策大学院教授 山崎 幹根

◆地方議会改革の動向と課題―事務局側からの視点(仮題)
議会事務局研究会所属 高沖 秀宣
(前三重県議会事務局次長)

◆議会基本条例制定のビフォー・アフター(仮題)
北海道福島町議会議長 溝部 幸基

7.詳 細
HOPSホームページ「2012地方議員向けサマースクール第5期生を募集します」
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