小野寺 聖【14期生】

2017年度 コミュニティ・デベロップメント・プログラム/インド・ファシリテーター育成コース

派遣先:インド

小野寺 聖【14期生】

現地時間2018年2月16日から2018年2月22日までに行われた「はじめてのフィールドワーク・ツアー in 南インド」(主催:認定NPO法人ムラのミライ)にHOPS国際フェローとして参加しました。特に印象的だったのは、プログラムの5、6日目のホームステイ体験で、プログラム拠点のビシャカパトナム市から車で3時間ほど移動した地域にある農村 Pogadavalli 村で行われました。

Pogadavalli 村のライフスタイル
この村は48世帯(訪問時)から成る集落で、基幹産業は農業(畜産・畑作)です。2つの井戸を結ぶように延びるメインストリートの両脇を、コンクリートやレンガで造られた住宅が一列に並びます。玄関の軒先ではヤギや牛が飼育されており、鶏が村中を自由に走り回る姿が見られるなど、非常に牧歌的な生活が営まれていました。前日までの調査で訪れたビシャカパトナム市内のスラム街とこの村が異なるのは、居住している人々がヒンドゥー教のカースト制度における「アウトカースト」となっている点です。近年では中央政府の方針によってカースト制度に縛られない環境が整備されつつあるものの、制度自体の廃止には至っていません。

ホームステイでは、事実質問を始めとする対話型コミュニケーションを通して村を取り巻く様々な現状について知ることができました。なかでも特徴的だったのは村のライフスタイルです。朝日が昇れば起床して農作業に向かい、動物達と衣食住を共にするようなその生活様式は、ビシャカパトナム市のような都市部と比較するとその特徴が顕著に現れます。一方で、村の人々は都市部と同様に携帯電話を持ちテレビを鑑賞するような都市的生活も営んでいます。さらに一部の住民は、家族を近隣の大学まで進学させられるだけの資金を捻出することも可能です。自然的生活と都市的生活という一見相反するようにも見える2つの生活様式が、1つのライフスタイルとして両立しているのです。

しかし、 以前からこのような暮らしを行なってきたわけではないようです。事実質問を交えてホストファミリーと対話を行なったところ、20年ほど前の村は電気も乏しく土壁造りの住居しかなかったことが分かりました。今ではオートリキシャ(インドで主流の交通手段)のオーナーも生活していますが、20年前の生活は現在よりもさらに貧しかったと考えられます。アウトカーストの村であり都会から隔絶している村が、この20年で生活環境を現代的に変化させたのは何故なのでしょうか。

「与える支援」と「待つ支援」
そこで、この目的意識を念頭に置きつつホストファミリーとの対話を行ないました。その結果、村が現在のような生活を送るまでになったのは、ムラのミライを始めとするNPO/NGOが長年に亘って対話型ファシリテーションを継続し、従来のコミュニティ開発の手法とは異なる「待つ支援」を実践した結果であることが分かってきました。

従来のコミュニティ開発では、地域に来訪した支援者が資源・インフラを一方的に供給するスタイルが主流でした。これが有効となる場合もありますが、支援者側の常識を押し付けるような手法を取った場合、地域にもたらされる諸資源は 「与えられたもの」であり、住民の手によって 「生み出されたもの」ではありません。これは課題について地域住民が自ら打開策を考える契機を奪うことと同義で、与えられた資源を有効に活用できず、結果的に地域を疲弊させてしまう本末転倒な事態に繋がりかねません。このような失敗事例は日本の地方創生事業でも数多く見られており、地域支援の現場に共通する問題といえます。

これに対して「待つ支援」は物事の考え方を伝えるのみに留まることで地域住民からの自発的な意見の創出を促すものです。ここで重要なのは、選択肢を提示するわけではないことです。支援者として地域に入る以上、地域住民と同じ目線にいるわけではありません。また支援者として提案すれば、地域住民は深く考えないままその提案を受け入れてしまうこともあり得ます。そうした一方的な関係性を避けるため、まずは精神的な距離感を崩すところから始まり、長い時間をかけて事実を聞き出した上で、今後どうすれば良いかについて考えてもらうのが対話型ファシリテーションです。答えを急がず、村で本当に必要となっているものについて考える機会を提供し、その結果に合わせた具体的支援を行うことで持続可能性の高い協働が創出されたと考えられます。ファシリテーションの中心を担う事実質問は、記憶にあることが返答となるため、質問に答えられないという負い目を感じさせることも少なく、対話の累積の中でお互いを尊重する意識が生まれたことも、協働が推進された要因でしょう。

このように「与える支援」と「待つ支援」を比較すると、後者は住民の自発的なエンパワーメントが発揮される機会を創出したといえます。さらに継続的な支援が、そのエンパワーメントをより持続可能性の高いものへと成長させたことが考えられます。事実質問が引き出した様々な事実の想起によって今後に関する具体的なイメージを浮かべやすくなったことも、エンパワーメントを動かした要因の一つでしょう。村が20年のうちに大きな発展を遂げて現在の暮らしに変化したことも、村の人々が自発的に今後を考えて行動した結果、長らく従事してきた仕事(農業)を捨てることなく現代化な生活環境を実現しようと努力した結果だと思われました。

今後の展望
全7日間に亘る研修は、充実した内容と恵まれたメンバーのおかげで大変実りあるものとなりました。特に事実質問を繰り返し練習したことによって、フィールドワークの精度が向上しただけでなく、日常生活の対話シーンでも相手の主張を汲み取りやすくなったと実感しています。言うまでもなく、1週間の研修で体得できるほどメタファシリテーションは簡単ではありませんが、この研修でその一端だけでも触れられたのであれば嬉しいです。

地方創生に深く興味のある私としては、「地域住民との対話」は相互理解のために不可欠であると考えています。人口減少に起因する地方過疎・都市集中は様々な要因が複合している難題であるだけに、それぞれが持つ地域特性の理解無しには語り得ません。だからこそメタファシリテーションは、時間をかけて培った信頼と客観的事実から当事者自身に対策を考えさせる点で、高度複雑化した地方創生を解きほぐす手立てとなり得るのではないかと感じています。今後は、インドで触れたこの技術をステークホルダーにとっての「気づきのツール」として発展させ、より効果的な地方創生を実現するための武器として活用していきたいです。

当事者の自立を無くして本物の支援と呼ぶことはできません。当事者本人が導き出した意見を尊重するスタイルは、Pogadavalli 村のみならず、様々な問題を抱えるこの日本でも求められているように思います。

北海道大学 北海道大学 法学研究科 北海道大学 経済学院 北海道大学 工学院 文部科学省 専門職大学院について