佐々木 隆生 
公共政策の多くの領域に「民営化」や「規制緩和」を通じて市場競争を導入することが、この四半世紀の政策の基調となってきた。だが、公共財、つまり市場では十分に供給できない財やサービスそれ自体が無くなったわけではない。二十世紀初頭にせいぜい10から15%であった政府の国内総生産(GDP)に占める支出比率は、先進国で50%近くになっている。しかも、「小さな政府」が謳(うた)われたこの四半世紀に、先進国では、その数値は高まることこそあれ低下はしなかった。一九八○年の40%程度はその後の二十年間に5ポイント以上上昇した。比較的政府の比重の低いアメリカや日本でもこの傾向を免れない。
それどころか、公共政策の領域はかつて経験したことのない空間と時間に向かって拡大してきた。地球環境の保護や老齢化社会への対応、グローバルな市場の安定化などはその代表的なものである。そして、それらは、かつての公共政策学には見られなかった「文理融合」「官民連携」などの課題を含んでいる。つまり、現代の公共政策は「再生」を必要としている。
国境越えた課題
北大の公共政策大学院が、「公共政策学研究センター」(センター長・中村研一教授)の設置を記念して、六月二十三日から毎週土曜日に三回にわたって開催した連続シンポジウムが「再生の政策学」−地球環境再生、開発再生、自治体再生−というテーマを掲げたのはそうした理由からだ。シンポジウムには、北大の外から自治体議員や職員、NPOやシンクタンク関係者、関心ある市民がつめかけ、多くの熱気ある質問が寄せられた。
北海道大学は、平成十七年に「文理融合」を掲げて公共政策大学院をスタートさせたが、今年の四月に「公共政策学研究センター」を公共政策大学院の中に設置した。公共政策大学院は、法科大学院や会計専門職大学院などと同じ「専門職大学院」、つまり高度な専門性をもつ職業人の育成を目的としている。言い換えれば普通の大学院がもつ教育と研究という二つの機能の内、片方しかもたないのが専門職大学院だ。それにもかかわらず、北大の公共政策大学院は研究機能を持ったユニークな専門職大学院となった。何よりも、公共政策の「再生」に取り組むことが社会的に要請されているからである。
そのことは、シンポジウムの中で示された。地球環境再生は、これまで公共政策の担い手であった一国の「国家」なり「政府」に課題の解決を委ねるわけにはいかないことを示してきた。気候変動は、それをもたらした地域や原因を問わず国境を越えてグローバルに作用し、各国の政府による規制と投資だけでは容易に解決し得ない。
持続可能な開発
「政府か市場か」をめぐって争われた争点の半ばは、旧(ふる)い公共政策を新しい公共政策に転換すること、旧い規制を改めて新たな規制を導入することを実質の内容としていた。開発はまさにそうした課題である。資源・食糧・人口問題解決の「国策」から出発した北海道開発がもはや意味を失ったとしても、国土の五分の一以上を占める北海道の均衡ある発展は市場に委ねて達成できるものではない。「北海道開発」が不要になったのではなく、新しく「北海道」という領域に根ざす持続可能な開発が求められている。
そうした領域を担う自治体は、地方分権改革の中で、「中央から資金を獲得する」「政府の計画にしたがって地方での事業を展開する」ことからの脱却を求められている。国と地方のもたれあいから脱却して、自分たちの地域のための地方自治を模索する必要が生まれている。その地域の公共財とは何なのか、それに行政はどのように応えるべきなのか−その際には、「お上」にもたれる住民の姿勢も問われることになる。「持ち出し」になった「三位一体改革」に幻滅し、政府の方針や基準がどのようなものになるかにおびえている時ではない。
「再生」の課題は、これら三つにつきるものではない。社会との応答の中でセンターを発展させたいと願っている。
(ささき・たかお=北大公共政策大学院教授)
北海道新聞夕刊文化面 平成19年7月27日掲載